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■ 東北ウーマンインタビュー


~働くことが活きることに繋がる~

〜働くことが活きることに繋がる〜
ライター/大学講師/少女マンガ研究者
トミヤマユキコさんインタビュー

 

ライター、大学講師、少女マンガ研究者など、様々なキャリアを持つトミヤマユキコさん。 今回は、そんなトミヤマさんに女性の労働を中心にお話をうかがいました。

 

好きなことは欲張る

 

車田)トミヤマさんは、複数のご職業をお持ちですが、今のお仕事に就くこととなったきっかけを教えてください。

トミヤマ)私はもともと早稲田大学の法学部生だったのですが、ある教授の授業にモグったらすごく楽しくて、その教授を追いかけて文学部の大学院に進んだのが、今の仕事を志すようになったきっかけですね。
ただ、最初は日本近代文学の研究をしていました。日本の少女マンガを研究するようになったのはその後です。


車田)なぜ日本の少女マンガを研究しようと思ったのですか?

トミヤマ)大学院の博士課程で完全なるスランプに陥りまして。そもそも私は研究が好きなんだろうか、みたいな気持ちになってしまい、全く論文が書けなくなりました。その時にマンガをたくさん読んで、研究熱が再燃したというか、これを研究してみたら面白いんじゃないかと考えるようになりました。

ライターの仕事は、高校時代に夢中になっていた雑誌『TV Bros.』の影響で、雑誌にかかわる仕事をしたいと思ったことがそもそもの始まりです。


車田)雑誌に携わる仕事といっても編集者やカメラマンと、たくさんの関わり方があるかと思うのですが、その中でライターという職業を選んだのは、何か理由があるのでしょうか?

 

 

 



トミヤマ)当時は世間知らずだったので、はっきりとライターを志望していたわけではなくて、なんでもいいから雑誌作りにかかわりたいとだけ考えていました(笑)。
大学入学後に運よく編集プロダクションのアルバイトを始めることができて、そこで『雑誌を作る』といっても様々な関わり方があることを知りました。自分は編集者さんとやりとりしながら原稿を書くライターが向いているのではないかという気づきもそこで得ましたね。

それと、仕事道具のことも大きかったと思います。私がちょうど大学生の頃に初代iMacが登場し、大学生のレポートが手書きからPCソフトに移行する時期だったんですね。ライターはPC一台あればできる仕事だということも魅力的だと感じていました。


車田)同時期に起きた様々な出来事がきっかけだったのですね。

トミヤマ)そうですね。ライターの仕事に関しては、資格のようなものが存在しませんし、文章を書くことが好きだという勢いだけで、ライターを名乗っていました(笑)。

結果、大学教員と二足の草鞋となりましたが、どの仕事も楽しいですし、双方の仕事が互いに良い影響を与え合うとも思っているので、今の働き方をできる限り続けていきたいですね。
 

 

トミヤマ流の仕事の仕方

 


車田)私事なのですが、ライターのお仕事に興味があります。もし、トミヤマさんが将来ライターのお仕事を目指す学生さんにをアドバイスされるとしたら、どんなことをお話されますか?

 


トミヤマ)そうですね…。一般的にライターは得意分野やジャンルなど、自分の強みを作っておくとよいと言われています。私もそうアドバイスします。
でも、私のキャリアを見てお分かりかと思いますが、書いているものがかなりバラバラで(笑)。

 



車田)トミヤマさんはこれまで複数の書籍も出版されていますが、確かに一つ一つのテーマやジャンルが全く違いますね!
これは、ご自身のお仕事のスタンスに影響しているのでしょうか?

トミヤマ)私の場合、今まで温めてきた企画を編集さんにぶつける、ではなく周囲から「この題材で書いてみたらどうですか?」とおすすめされて書くことが多いです。

初めて出版した本『パンケーキ・ノート』は、パンケーキ屋さんを探す際に参考にしていたブログを書いている方の本を作ったらどうかなと思っていたんです。けれど、仲良しの編集さんが「ブログやパンケーキについてプレゼンしているトミヤマさんの話が面白かったから、トミヤマさんが書いてみませんか?」と言い出して、私が執筆することになりました。


車田)その他の書籍も周囲の後押しやアドバイスから生まれたのでしょうか?

トミヤマ)そうですね。『大学一年生の歩き方』も、知り合いのライターである清田隆之さんと何かやりたい、ということだけが頭にあって、それ以上のことは考えていませんでした。打ち合わせで担当編集者さんと話しているうちに「大学一年生で何をしたらよいのかわからない人に向けて、トミヤマさんが先生目線で語り、清田隆之さんが元大学生として客観的な視点から語る構成の本はどうですか」という話になって「それがいい!」と。



車田)そういった流れでお仕事が進む場合もあるのですね、勉強になりました!

 

 

 

地方から見えた女性の労働



車田)では、本題に入らせていただきます。今回は、少女マンガに描かれた女性の労働に関する研究もされているトミヤマさんに、「女性の労働全般」についてお話をいただきたいと思います。

私の個人的な意見なのですが、地方(東北)は、どうしても就職口の少なさや、結婚を急かす・結婚はして当たり前などといった強い意識等を感じてしまうことがあります。私は、これは女性の生き方の選択肢の幅を狭めているのではないかと感じているのですが、トミヤマさんはどう思われますか?

トミヤマ)こちらの大学に来てから、女子学生のみなさんと就職について話をする機会が増えたのですが、地方は家族の力が強いと思いましたね。


車田)家族の力が強い、とは具体的にどんなことでしょうか?

トミヤマ)地方における就職の1つの特徴として、いま所属しているコミュニティから出ないで就職・生活するということがあると思います。「転勤はしたくない」、「実家から通える距離で進学・就職したい」など。本人の意思でそうする方も、もちろんいます。
でも、「本当は実家を出て他県で就職をしたいけど、両親が反対している。家族のことも大事なので我慢します。」というような学生さんも一定数いるような気がしていて。
娘を大事に思うご家族の気持ちが、子どもの可能性を阻めてしまっているんですよ。


車田)なるほど。確かにそうかもしれません。

トミヤマ)これは教員としても心苦しいですね。家庭の事情なので、教員が割って入ることはできませんし。「流出を止めたい」、「手放したらもう戻ってこないんじゃないか」という親御さんの気持ちも、本当によくわかります。
ただ、学生さんのことを考えると、地域が、というより先ずは家庭が変わっていく必要があると私は思いますね。

ちなみに、車田さんはご自身の進学先や就職を現時点でどう考えられていますか?

 



車田)私は岩手県盛岡市出身で、今は山形県で一人暮らしをしています。福島県の実家はとても居心地が良いため「就職はそこから通える距離でもいいかな」と、入学当初は考えていました。
けれど、学科生や教授方の影響を受け、バリバリ働きたいと考えるようになりました。いろいろな経験を積みたいので、できれば仕事をしながら居住地も定期的に変えていきたいなと考えています。

トミヤマ)そうなんですね。それはとても健全な野心だと私は思いますよ。
ご両親がどう受け止められるかはわかりませんが、「少しでも自分の可能性を試したい」と知的好奇心のある学生さんが前に進み続けるには、やはり親世代の理解があると嬉しいですよね。
 

 

 

 

 

働くことの大切さ
 

 

 

車田)トミヤマさんは『労働』をどのようにとらえているのでしょうか?

トミヤマ)私は、労働を自分の存在意義を教えてくれるものだととらえています。もっと言うと、社会に私がいていいんだと思えるために必要なのは、「愛」でなく「労働」だと思っているんですよ。

たとえば、愛する人が自分を認めてくれるから、私はここにいていいんだと思ってしまうと、その人を失った時に自己肯定感がものすごく下がると思うんですね。ですから、心身共に健康で動くことに支障がない人は、どんな形でもいいので働いて、社会と関わっておくといいんじゃないかと。



車田)『労働は絶対的な肯定感を作ってくれる』とのお話がとても共感できます。トミヤマさんのそのような考え方をもつようになったきっかけやルーツなどはありますか?

 



トミヤマ)私の実家は転勤族で2~3年に一回は引っ越しをしていたため、幼馴染みもいませんし、地域と深いつながりを作るのもなかなか難しくて。
そのため、結婚しようが独身だろうがまず自分の足で立って生きていけるようになろうと考えていました。経済的なことを含めまずは生活をしっかりさせること、それができたら困ったときに頼れる同性の友人を少しでいいからつくること。

とにかく自立を優先していて、恋愛や結婚は二の次でした。
好きな人ができて結婚ができたらラッキー、ぐらいに考えていましたね。

 



車田)つまり、恋愛はあくまでもオプション、ということですか?

トミヤマ)そうです。恋愛を全くしなかったわけではありませんが、自分の中ではメインではありませんでした。今は結婚して夫がいますが、彼とは夫婦というより親友のような関係です。結婚願望がないのに相手に恵まれたのは本当にラッキーでした(笑)。


車田)友人のような関係性、とてもいいですね!恋や愛とは違うのでしょうか?

トミヤマ)「トミヤマさんって恋愛にあまり興味ないですよね」と言われたことがあるくらい、本当に恋愛体質からは程遠い人間ですね(笑)。
女を養える経済力とか、異性としての魅力にぜんぜん興味がないんですよ。それより、相手を思いやる気持ちや会話の楽しさといった一種のコミュニケーション能力が大事。


車田)お互いが一個人として自立していることが前提での結婚という考え方に、とても共感できます。私の結婚観もトミヤマさんと似たような価値観で、まずは自分一人でも生きていけるように土台を作ろうと考えています。

トミヤマ)私がこうして強く生きていけるのも、「自分には仕事がある」と思えるからなんですよね。だから夫に対して変な忖度や我慢をせずに済みますし、お互いがお互いを対等な相手として認め合うことができていると感じています。


車田)本当にその通りだと思います。自分の人生を自由に選択するためにも、男女問わず「働く」ということはとても大切だと改めて思いました。
 

 

今後について


 

 


▲2019年のゼミの様子
トミヤマさんいわく、「大学講師の仕事は、学生と話している時が一番楽しい」とのこと


車田)今後の展望についてお聞きしたいです。

トミヤマ)何年計画といった長いスパンでの計画は立てていませんが、毎日必ず何かしらの成長ができるよう意識しています。それはどんなことでもよくて、職業上のスキルアップでもいいし、人に親切にするといった、本当に小さなことでもいいんです。

 

私はこれまで、ほとんど計画らしい計画を立ててきたことがないんですよ。編集者さんにすすめられるがままに本を書き、「東北の大学で講師の公募がありますよ」と教えてもらえば、夫への相談もそこそこに履歴書を送ってしまうような人間で。一応「一生ものを書いて生きていきたい」みたいなことは考えてはいるんですが、その内容はばらばら(笑)。
事前に色々と計画を練って行動に移すよりも、私は行き当たりばったりの方が合っていますね。


車田)大きな目標を立てすぎないということも一理あると思います。今世界中がコロナウイルスの影響を受け様々な計画が潰れてしまい、計画の意味がなくなってしまう場合もあるので。

トミヤマ)結局、人生って何が起こるかわかりませんからね。臨機応変に対応していくことが大切だと思います。


車田)トミヤマさんの自由な生き方は本当に憧れます。どうしたら、トミヤマさんのように自分の好きなことを継続しながら生きていけるでしょうか?

 



トミヤマ)私が常日頃心がけていることとして、人と同じことをしないようにしています。既に用意されている椅子(地位や場所)をめぐって誰かと争ったり蹴落とそうとしたりするのではなく、まだ何もない場所に自分の椅子を置いて座るようなイメージです。


車田)人とは異なる土俵で仕事をすることも、トミヤマ流のお仕事の仕方なのですね。

トミヤマ)そうですね。私のように大学教員をしながらライターのお仕事をしているマンガ研究者ってあまりいないんじゃないでしょうか。本当は何か1つに特化している方がいいのかも、と思うこともあるんですよ。
でも今のところ、私の仕事ぶりを見て面白がってくれる方はいるので、需要があるうちは変な所に椅子を置いて自分らしくやっていこうかなと思っています(笑)。


車田)貴重なお時間をいただきありがとうございました。今後もトミヤマさんのご活躍を応援しています!
 


(撮影:奥山美澄紀)

 

 

 

profile

トミヤマユキコさん


1979年、秋田県生まれ。

ライター/東北芸術工科大学 芸術学部 文芸学科講師/少女マンガ研究者

著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)や『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)、

『大学1年生の歩き方』(清田隆之との共著、左右社)、

『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)などがある。

今年10月にはエッセイ『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)を出版。


Twitter:@tomicatomica

 

 

interviewer
車田咲耶(推し大好きさくや)

出身地:岩手県盛岡市

趣味:聖地巡礼

東北の好きな所:四季がはっきりしているところ

モットー:兵は拙速を旨とせよ

ひとこと:東北を回り切ります!
 


 
<編集後記>

人生初、推しであるトミヤマユキコさんへ

インタビュー・対話をすることができたあの2時間は、

一生忘れることのできない出来事となりました。

トミヤマさんの飾らない人柄

好きなものをとことん追求するエネルギッシュさを

Zoom越しに感じることができ価値観が感化されました。

取材にご協力いただいたトミヤマユキコさん

自分の『好き』を追求するチャンスを与えてくださった関係者の皆様へ

感謝を申し上げたいです。

ありがとうございました!