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■ 東北ウーマンインタビュー


山形から世界一のパティシエへ

山形から世界一のパティシエへ
KEYAKI SWEETS & BAKERY 東根本店店長 兼 東北スイーツ研究所 副所長
大河原佳織さんインタビュー

「KEYAKI SWEETS & BAKERY」は、果樹王国山形県東根市に誕生した、旬の美味、地元で採れる希少な食材で作るプリンやタルト、焼きたてのパンを製造、販売しているお店です。KEYAKI SWEETS & BAKERYで店長を務める、パティシエの大河原佳織さんにインタビューしました。

 

 

美味しい食べ物をさらに美味しくするのがパティシエの仕事
 
 
長瀬) KEYAKI SWEETS & BAKERYは、なぜ東根にオープンすることになったのでしょうか。

大河原 ) 現在東根市は、山形県内で唯一人口が増えている町です。さらに、宮城県仙台市からもアクセスが良いこと、空港があることなどから、ここにオープンすることになりました。

長瀬 ) 確かに、様々な取り組みを行っていて、成長している町というイメージがあります。

大河原 ) 「子育ての町」というのも掲げていますしね。

長瀬 ) スイーツをつくったり、新たに開発したりする上で心掛けていることはありますか?

大河原 ) フルーツは元から美味しい食べ物ですが、それをさらに美味しくするのがパティシエの仕事だと思っています。だから、そのフルーツの持っている美味しさをより引き立てるようなスイーツを生み出そうと心掛けています。
 
 
長瀬 ) 東根市はフルーツ王国ですし、絶好の土地ですね。

大河原 ) 私の実家もお米農家だったんですが、昔おばあちゃんがコンバイン(農業機械)で稲刈りをした後、落ちている稲を一つ残らず手で拾っていたんですよ。かなり広い田んぼなんですけど、腰も曲がったおばあちゃんが「米一粒一粒に神様が宿ってんだ」って言うのを見てきたので、農家さんの気持ちがすごくわかるんです。そういう想いを無駄にしたくない、と思って仕事をしています。
 
 
長瀬) ご実家がお野菜やお米を作っていたことが、今の仕事にも影響しているという感覚ですか?

大河原 ) どうなんですかね…。でも、何かを作るのは好きなんだと思います。

長瀬 ) それだけお菓子作りに対する想いは強かったということですよね。

大河原 ) そうですね。夢っていうのは、すごく大きくて、パティシエになりたいというよりも、なんかもう漠然と、世界一のパティシエになりたいという想いがずっとあって、こんなところでくじけてられないみたいな感じでした。もしかしたら今の自分よりも、当時の自分の方が頑張ってたかもしれないですね。でも今はあの時の自分を裏切れないっていう想いがあります。
 
夢への再挑戦
 
 
長瀬 ) 大河原さんのご出身はどちらですか?

大河原 ) 山形県高畠町出身です。

長瀬 ) ワインの生産が盛んな町ですよね!

大河原 ) そうです。

長瀬 ) スイーツの業界を目指したきっかけはありますか?

大河原 ) 小さい時から、ずっとケーキ屋さんになりたいと思っていました。お母さんがいつも家でケーキとかパンを作ってくれていた影響もあって、もう物心ついた時にはケーキ屋さんになりたいと思っていましたね。

長瀬 ) 素敵なお母さんですね。

大河原 ) はい。そして高校生の時もずっとパティシエになりたいという夢はあったんです。当時はそのまま地元で就職したのですが、そのうちに「同級生たちもみんなそれぞれの地で頑張っている。私も別の場所で頑張りたい」という思いが強くなりました。そこで私は、お金を貯めて専門学校に通い直そうと思ったんです。

長瀬 ) 夢への再挑戦、ですね。

大河原 ) そうです。地元・高畠町で約2年間、様々なアルバイトを掛け持ちしながらお金を貯めました。そして2年後に新潟の製菓専門学校に自力で進学することが出来ました。

長瀬 ) 2年越しで専門学生になったのですね。

大河原 ) でもその2年間で貯めたお金は、入学時に納めなければいけない分で、全てなくなってしまいました。入学した後も半年ごとに学費を払わなければいけないので、専門学校に入ってからも死に物狂いでアルバイトをする生活を送っていました。でも自分の服も買えないし、学費も滞納するような状況でした。

長瀬 ) ご両親に頼らずに、本当に自分の力だけで生活していたんですね。

大河原 ) 本当に死ぬほど働きましたね。学校が終わったら15分後くらいにはアルバイトに行って、そこから朝の5時くらいまで働いたりしていました。主なアルバイト先は、ファミレスやホテルでした。それでなんとか学費や生活費を払っていました。

長瀬 ) もう寝る間もなかったのではないですか?

大河原 ) そうですね。そんな生活をしていた時に、椎間板ヘルニアを発症しました。

長瀬 ) 体に負担がかかっていたんですね…。

大河原 ) はい、それで卒業間際に手術をしました。

長瀬 ) 卒業間際に…。でも無事に卒業されたんですよね。

大河原 ) はい。卒業は無事にできました。

 

 
KEYAKI SWEETSとの出会い
 
大河原 ) 専門学校を卒業した後は、福岡県にある有名店で1年半働きました。

長瀬 ) 福岡県まで行っていたんですね。やはり地域性みたいな、福岡県ならではのこととかありましたか。

大河原 ) ありましたよ。福岡県は自分の思っていることをハッキリと言う文化なんです。なので職場の先輩に「何で自分が思っていることをハッキリと言わないの」みたいに怒られていました。

長瀬 ) 山形を遠く離れて、全く知らない土地で、有名店で働くということはものすごく疲れるというか、苦労したことも多かったのでしょうか。

大河原 ) そうですね。そこで頑張っていればいつかは世界一のパティシエになれると思っていたのですが、人間関係に悩んだり、有名なお店だからこそ、なかなか直接お菓子を作らせてもらえるような環境ではなかったんです。そこで私はやっと「どこにいても自分が向上心を持ってやらないと結局成長できないんだ」と気付きました。
 
 
長瀬 ) そして地元の山形に戻ってくる決意をしたんですね。

大河原 ) はい。地元・高畠のケーキ屋さんで3年半ほど働きました。その後山形市内のケーキ屋さんで働いていた時に、KEYAKI SWEETS & BAKERYという場所が出来るのでそこで働かないかというお話をいただきました。その後、本社がある福島県で、KEYAKIのオープンに向けて準備をしていました。

長瀬 ) 本社は福島県なのですね。

大河原 ) はい。そして実は今年の1月にまた椎間板ヘルニアが再発してしまったんです。ここ(KEYAKI SWEETS)がオープンする時に東根市に引っ越してきて、その翌日にとても足と腰が痛くなってしまって、そのまま病院に連れていってもらい、すぐに2回目の手術をしました。その後2か月間病院にいたので、ここの店長になったのは10月からなんです。

長瀬 ) 復帰早々、店長になられたということなんですね。

大河原 ) もともとここがオープンする時から店長になることが決まっていたのですが、ヘルニアの関係で遅れてしまったんです。その間は会社や社員の方にとてもご迷惑をお掛けしてしまいました。

長瀬 ) ケーキ屋さんやパン屋さんは朝が早くてずっと立ち仕事というイメージがありますが、その辺りはどうですか。

大河原 ) 日中くらいまでは問題なく働けているんですが、やはり夕方くらいになると足腰が痛くなってきてしんどいですね。福岡にいた頃は長時間働いていたので、それに比べて今は働く時間も短くなって、働きやすくなりました。
 
地元・山形との繋がり
 
長瀬 ) KEYAKI LAB(ケヤキラボ)東北スイーツ研究所という事業もされていて、東北芸術工科大学の学生とのつながりもあるんですね。

大河原) そうですね。KEYAKI LABは、皆様のご意見を元に、新しいお菓子やパンを生み出していくラボです。このお店で働いている人も地元出身の方で構成されていて、地元に根付いたお店でありたいと考えています。

長瀬 ) 学生とのコラボで生み出された商品も、実際に店頭に並んでいますよね。大河原さんは福岡にいらしたご経験もありますが、東北という地域で働くことについてどう考えていらっしゃいますか。

大河原) 実はずっと、他の世界に出てみたいという想いが心の中にありました。でも、実際に他県に行ってみても「結局のところ、日本は日本なんだな」と思ったんです。飛行機に乗ったときなどは特に思います。

長瀬 ) 確かに、飛行機から見る日本はとても小さい…。自分なんてちっぽけなものだと感じますよね。

大河原) そうなんです。そこで、人間に平等に与えられたものって何だろうと考えた時に、時間しかない、と思いました。寿命だってわからないし、今の一瞬を楽しんで生きることがなんで自分にはできないんだろうと思いました。

長瀬 ) 時間は平等、おっしゃる通りです…。心にグサッと来ますね。

大河原) どこにいても、結局自分がパティシエをやりたいというのは変わらないなと思いました。自分は他の人に比べたら重い病気もしたけど、それでも時間は平等なので自分が一生懸命やろうと。山形の高畠という街に生まれたのも、きっと何かの意味があるし、今は家族のそばで頑張りたいという想いで働いています。
 
 
長瀬 ) 私も、生まれた土地や育った土地には、何かしらの縁や意味がある気がしています。家族のそばで頑張る、それもひとつの選択肢ですよね。

大河原) そう思います。結局、何かあった時に助けてくれるのは家族なんですよね。兄弟もみんな地元に住んでいます。先ほど、弟もケーキを買いに来てくれました。

長瀬 ) ご兄弟仲が良いのですね。買いに来てくれるのは嬉しいですね。

大河原) 仲いいですね。そうやって家族で助け合いながら生活している感じです。

長瀬 ) ケヤキスイーツの店内には、買ったものを食べられる飲食スペースなどもありますが、地元の方々にも来てもらえているなという実感はありますか。

大河原) そうですね、徐々に増えてきているのかなと思います。子育て中のお母さんたちにも、もっとたくさん来てもらいたいなと思っています。

長瀬 ) 東根市が子育てに力を入れている町ということですから、もっと子育て世代に来てもらえたら嬉しいですよね。

大河原) そうです。子育て中の方が多くいらっしゃってもいいように、駐車場も広く作っているので…。
 
悩みを忘れてしまえるようなお菓子を作りたい
 
 
長瀬 ) 今はまだお忙しいかもしれませんが、もし落ち着いたら今後やってみたいことなどはありますか。

大河原 ) 今はまだお菓子よりもパンの方が品数が多くて、地元の人たちにも「パン屋さん」という認識をされているのが現状です。なので、今後はもっとお菓子売り場を広げられるように、お菓子のことも地元の人に知ってもらえるように頑張っていきたいです。

長瀬 ) ご自分で売り込みなどもされているんですか。

大河原 ) 最近は自分で営業活動もしていますね。本業はパティシエですが、今はそれ以外の、営業だったり、後輩の指導だったり、後は自分たちでお菓子のラッピングなども行っています。

長瀬 ) ラッピングもご自分でされているんですね。

大河原 ) はい。でもだからこそ気付けたこともたくさんあって、意外と手間がかかるんだなとか、包材ってなかなかコストが掛かるんだなとか。

長瀬 ) パティシエが全部の工程に関わる方が珍しいかもしれないですね。

大河原 ) そうですね。逆に面白いって思っています。

長瀬 ) 実は私も小学生の頃、パティシエになりたいと思っていたんですよ。

大河原 ) えー、なんで変わっちゃったんですか。(笑)

長瀬 ) 小さい頃から食べるのが好きで、食べるために作りたいって感じでした。(笑)でも、中学生くらいで英語を使う仕事に就きたいと思うようになったんです。

大河原 ) そうなんですね。
 
 
長瀬 ) 結局、英語を使う進路には進みませんでしたが。小学生くらいの頃は、周りにパティシエになりたいという子が多かった印象があります。

大河原 ) そうですよね。やっぱり、お菓子の業界って華やかなイメージがあると思うんですよ。でも実際は全然違います。重労働が多いし、下積みの時代はお菓子に触れられる時間も24時間中で1時間ほどしかありませんでした。

長瀬 ) なかなかハードですね。

大河原 ) そうですね、やめていく人も多いです。でも子どもたちが憧れを持っていてくれるのはとても嬉しいことなので、子どもたちが思い描くような素敵な世界に、お菓子業界全体が変わっていくといいなと思います。

長瀬 ) 大河原さんの、本当に多くの経験を活かしていけたら素敵な働き方ができる職場になりそうですね。まだやりきってないことがあるっておっしゃっていましたが、それはどんなことですか。
 
 
大河原 ) もう全てですね。例えばシュークリームを焼いたとして、もっと良くなるんじゃないかって毎日思うんですよ。焼く時間を変えたりすること自体は、ほんの何秒レベルの世界だけど、焼き菓子は見た目が特に重要だからこだわりますし。それが続く限りは、ずっとパティシエをやっていくんだろうなって思っています。自分が、これが最高だって思って作っても、世界中にはもっと上を行くお菓子が生まれているんです。

長瀬 ) そういった裏側での苦労があって、あの綺麗で美味しそうなお菓子たちが生まれているんですね。

大河原 ) 私は昔から、人間関係に悩んだり、病気だとか色んなことで苦しい思いをしましたが、お菓子を食べているその一瞬だけは忘れられたんです。他の人にとっても、そんな風に思ってもらえるお菓子を作っていけたらいいなと思っています。

長瀬 ) 大河原さんが今後生み出されるお菓子たち、とても楽しみにしています。
 
 

( 撮影 : 黒瀬圭野 )

≪KEYAKI SWEETS & BAKERY≫

 

〒999-3701

山形県東根市大字東根甲6089

TEL : 0237-48-8663

OPEN 9:00 ~ CLOSE 18:00(なくなり次第終了)

定休日:毎週火曜日

KEYAKI SWEETS & BAKERYの詳しい情報は公式HPをご覧ください。
公式SNSはこちら Facebook Instagram
profile
大河原佳織さん
 

山形県東置賜郡高畠町生まれ
専門学校卒業後、福岡県の有名店に就職
地元・山形県高畠町に戻り、ケーキ屋に3年半勤務
2019年10月より、kEYAKI SWEETS & BAKERYで店長を務める

interviewer
長瀬さくら(インバウンドNAGASE)

出身地:栃木県那須塩原市
趣味:プロ野球観戦、ライブ
東北の好きな所:楽天イーグルス、美味しいご飯
モットー:腹が減っては戦は出来ぬ
ひとこと:卒業までに、東北の魅力を知り尽くします!

<編集後記>
小学生の頃、将来の夢がパティシエだったと本文中でも触れましたが、パティシエの世界がこんなに過酷だとは思ってもみませんでした。
一見華やかなだけど過酷な世界で、大河原さんは本当に多くの挑戦をしていらっしゃる方です。お菓子作りへの情熱がビシビシと伝わってくる、濃厚な1時間でした。取材後、店内で販売しているお菓子を購入して帰路につきました。本当に色鮮やかで美味しかったです!
取材に当たりご協力いただいた大河原さん、そしてスタッフの皆様、本当にありがとうございました。