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■ 東北ウーマンインタビュー


“個性”を大切に、顧客の笑顔のための建物づくりを目指して

 

“個性”を大切に、顧客の笑顔のための建物づくりを目指して
一級建築士 板垣美保さんインタビュー

合格率約12パーセントという試験に合格し、青森県で一級建築士として活躍している板垣美保さん。

女性の少ない建築士という職業で働くことのやりがいや、板垣さん流の働き方、プライベートのことなど様々な面から一級建築士というお仕事についてお話を伺ってきました。

外に出て遊ぶことは良い仕事をする手掛かりになる

黒瀬 )いつから建築士という仕事を目指したのですか?目指したきっかけなども教えていただきたいです。

 

板垣 ) 建築士になろうと思ってこの仕事に就いたわけではないんです。子供のころから物を作るのが好きで、最初一般の企業に勤めながら、武蔵野美術大学の通信に通っていました。そこでたまたま建築士の先生と知り合いになり調べていくうちに、“建築物は自分の寿命よりも長く残る”ということを知って「建物って面白いんだな」と思ったのがきっかけですね。 それと、一般企業に勤めていたときに、文房具屋さんと関わることが多かったのですが、たまたま「設計事務所でバイトを募集しているんだけど行く?」と誘ってくださって。それが転機となり会社を辞めて、建築事務所に就職し建築の仕事を始めました。

 

黒瀬 )“たまたま”が重なって今のお仕事に就いたのですね。

 

板垣 )そうですね。当時、建築は凄い人がやるものというイメージが強く、私には出来ないものだと思っていました。

 

黒瀬 )そうなんですね。武蔵野美術大学の通信に通っていてよかったと思うところはありますか?

 

板垣 )様々な県から学生さんが来ていて、地元の人しか知り合いがいなかった私にとっては、新しい刺激が得られました。通信は、働いている人たちがすごく多くてプロの人たちも基礎を身に着けたいという理由で通われていました。幅広い年齢層の方やいろんな仕事をしている人が沢山いて、こういうところが面白いなって思います。でも、途中から仕事の方が面白くなってきて、一旦休学したんです。そのまま建築の仕事の方が面白くなり、今に至ります。

 

黒瀬 )そうなんですね。先ほど、はじめから建築士になろうと思っていたわけではないとおっしゃっていましたが、一級建築士の資格を取るのはすごく難しいというのを調べたことがあります。受験しても全体の12%しか受からないというのをみたことがあるのですが、そのような難しい試験はどのように勉強していたのですか?

 

板垣 )勉強の仕方は「お風呂」でした。まず私は、2級から取得していかなくてはならなかったんです。実務の経歴があり、そのあとに経歴をこなしてから2級の試験を受けて、その4年経ってからでないと1級を受けられないというすごくロングスパンだったんです。 それで試験は、一級の試験を受ける頃には昔よりも仕事ができるようになっていたので、家に帰ってくるのも遅いんですよ。その時は勉強するために仕事を休むことができなかったので、時間が確保できず、お風呂の入浴中に試験のための勉強をしていました。

 

黒瀬 )お風呂ですか!

板垣 )はい。(笑)お風呂で暗記物を声に出して読んでいました。2時間とか入っていましたね。

 

黒瀬 )2時間も入っていたんですか…すごいですね。

 

板垣 )その勉強法のことを“入浴学習”と言っていました。声に出して読むと覚えられるからからいいんですよね。

 

黒瀬 )なるほど。声に出すと覚えるって聞いたことがあります。

 

板垣 )試験の内容は過去問が6割で、4割が新しい問題が出題されるので、ヤマをかけて勉強をしていました。過去問はほぼ解けないと受からないので全て解けるようにしていました。

 

 

黒瀬 )どのくらいの期間勉強しましたか?

 

板垣 )勉強したのは半年くらいです。

 

黒瀬 )試験は1回で受かったのですか?

 

板垣 )そうです。検定は仕事で役に立つし、もっと違うことにチャレンジできるので取ってよかったと思います。

 

黒瀬 )そうですね、私も思います。

 

板垣 )でも、設計事務所に行って一番言われたのが、私たちは建物を作るにあたって住居とか公共施設とかいろいろあるけど建てる時、日々どうやって暮らしているかの観察と考え方がきちんとしていないとできないということでした。なのでたくさん遊びなさいと言われましたね。いっぱい遊ばない子は仕事ができないって。

 

黒瀬 )色々なことを外で経験した方が良いということですか?

 

板垣 )ぼーっとしてるわけじゃなく、観察ですね。人はどう動いているのか、どう考えてるいるのか、どういう動きをしているのかっていうのを覚えておかないと反映できないんですよね。 だって、みんな楽したいじゃないですか。

 

黒瀬 )楽したいです(笑)

 

板垣 )楽したいという気持ちがあるから、世の中に便利なものが生み出されているのだと思います。

指揮者のような役割で人を動かす
 

黒瀬 )建築士という職業は男女比が女性の方が少ないと聞いたことがあるのですが、その女性が少ない世界で仕事をしていることのやりがいはなんですか?

 

板垣 )いつも仕事をしている時はすごく大変だから「これが終わったらやめてやる」って思うんですけど、仕事が終わってお客さんが「ありがとう」と言ってくれて、その喜んでいる笑顔で救われます。それが私のいきがいです。

 

黒瀬 )人の喜ぶ姿をみれると頑張ろうって思えますよね。その反面、女性が少ない職業で気を付けているところはありますか?

 

板垣 )男性の多い業界なので強く出れないというのはわかっているので、現場で足場に上って細かいところまでチェックすると決めています。大体みなさんが間違いやすい所を想定し、指摘するとそのあとはこちらの意見に耳を傾けてくれるようになります。 あともう一つは、言葉の使い方や言い方に気を付けるようにしています。職人さんは男女関係なくお仕事に誇りとプライドを持っている方が多いので、絶対に傷つけないように言葉を選んでお仕事をしています。

 

 

黒瀬 )同じことを伝えるのにも言い方って大事ですよね。

 

板垣 )男の人は褒めることが大事ですね。

 

黒瀬 )なるほど…参考になります。(笑)

 

板垣 )釘さしておくっていうのが大事ですね。若い時の私は結構きつめで言ってたんですよ。それって絶対にプラスにならなくて、空気が悪くなっちゃうんですよね。建築家の仕事ってオーケストラでいうと“指揮者”なんです。いい音を奏でてねってやるのと一緒で設計はするんだけどその設計よりプラスアルファでできてほしいって思うから、人をうまく動かさないといけないんです。

 

黒瀬 )人を動かすのには、そのようなテクニックが必要なのですね。 建築士という職業は指揮者のような立場とおっしゃっていたのですが、もとから人を動かすのが得意だったのですか?

 

板垣 )いや、得意ではなかったですよ。でも人をよく見て判断するようにしています。 要するに“ものさし”ですね。人はよく自分のものさしで言いがちなんです。例えば、自分はこの仕事をすぐに終わらせられたのに、なんであなたはできないの?ってなりやすいんですよね。でもそれをやめました。その人のものさしで見るようにしたら関係がうまくいくようになりましたね。

 

黒瀬 )私も自分のものさしで思ったことを言ってしまうことがあるので気を付けたいと思います。

 
プライベートと仕事は繋がっている
 

黒瀬 )ところで、お仕事が忙しくて大変だと思うのですが、お休みの日は何をしているのですか?

 

板垣 )旅行が好きなので、息子と海外旅行に行きますね。

 

黒瀬 )海外旅行いいですね。これまでどのような国に行かれましたか?

 

板垣 )今までは建築ばかり見に行っていたので、フランスやロンドン、オランダ、ドイツ。 アメリカだと、ロサンゼルスやフェニックス、サンフランシスコとかハワイにも行きました。 毎回3泊5日とか強行突破で行くんです。

 

黒瀬 )すごく色々な国で建築物を見に行っていたのですね。今まで旅行してきた国や地域で一番印象に残っているところはどこかありますか?

 

板垣 )印象に残っているのはヨーロッパですね。その中でもフィンランドが一番好きです。 先日も、息子と2人でオーロラを見に行きました。 今までは建築物を見に旅行に行っていたのですが、最近は子供と一緒に『涙ちょちょ切れ絶景ツアー』と名付けて行きました。(笑)言葉が伝わらないなら、ジェスチャーを使って自分で頑張る、親も当てにならないよっていう旅にしています。

 

黒瀬 )旅の中でも息子さんが成長できるように考えているのですね。お仕事と子育ての両立で大変なことはありますか?

 

板垣 )私の息子は発達障害という特性を持っていて、両親も介護が必要なんです。ですが、その環境の中でも建築の仕事に生かせることがあるんですよね。

 

黒瀬 )例えば、どのような時に生かせていると思うのですか?

 

板垣 )例えば、二世帯住宅つくりたい人には経験者の私から適度にアドバイスしたりできます。発達障害の子を診るクリニックをつくる話がきて先生と打ち合わせをしてる時も、経験談を交えて話をしていたので、そういう面では息子にすごく感謝しています。

 

黒瀬 )息子さんと二人三脚でお仕事もプライベートも充実しているのですね。 板垣さんの今後の目標や夢を教えてください。

 

板垣 )自分の造りたいものを造っているつもりではいるのですが、もっと表現できるようにしたいです。その時はこれが200%って思うんだけど、時が経つとこうすればいいなって。やれる範囲ではやるのですが、もっと色々なことを複合的にやれればいいなと思います。

 

 

黒瀬 )今後設計してみたい建物はありますか?

 

板垣 )やっぱり住宅が好きです。人の住み方は色々あっておもしろいですよね。「あなたできる?」って挑戦されてるような感じがして。やってやる!と思うんです。

 

黒瀬 )その分、先程もおしゃっていたように、人に寄り添ったり、観察しなくてはいけない部分はこれからも続いていくと思うのですが、その上で大切にしていきたいことや軸はありますか。

 

板垣 )そうですね。人の話を聞ける状態を常につくっておきたいと思います。聞けなくなったら最後だなって。歳をとってくると若い子たちに「君たちこうした方がいいよ」とか、押しつける人になりがちなんです(笑)先回りして言いそうなんですけど、つまずいた時はつまずけばいいんだって。自分以外の人の気持ちを理解するのに時間はかかりますが「この人が喜ぶことはなんだろう」というのを探したり、考えたりするのが好きです。

 

黒瀬 )お話を聞いていて「個性」を大切にしてらっしゃるんだなと感じました。ありがとうございました。

 

(撮影:菊池みなと)

青森県 住宅(撮影:studio Crew)

青森県 住宅

山形県米沢市 住宅(撮影:佐々木茂)

山形県米沢市 住宅(撮影:佐々木茂)

小児科(撮影:studio Crew)

小児科(撮影:studio Crew)

profile
板垣美保さん
 

<趣味・好きなもの>
旅行(とくに世界の絶景が見たい)、読書、映画、海外ドラマ鑑賞(特にUSA、EU系のドラマ)、ヒンメリ作り
<最近はじめたこと>
老化防止にフラダンス
<モットー>
1日を楽しく過ごす!!

(株)Craftwork建築計画工房
〒030-0931 青森県青森市平新田字森越22-10
HP: https://www.craftwork2002.jp

 
(取材:2018年9月)
interviewer
クロセヨシノ(サブカルヨシノ)

 


出身地:山形県山形市
趣味:買い物、YouTube
東北の好きな所:肉も魚も美味しいところ!!
モットー:やる?やらない?よし、やろう!
ひとこと:寝ても覚めてもここは東北
 

 


<編集後記>

住宅のリフォームやインテリアが好きな母の影響で興味を持った、一級建築士という職業の方に取材させて頂くことができてとても嬉しく思います。取材前から一緒にいたメンバーに緊張すると話していた私でしたが、板垣さんはとても気さくで話しやすい方でいつの間にか緊張がほぐれていました。

何かのきっかけで今の職業に就き、それが自分にとって遣り甲斐のある仕事になっているということがとても素敵でした。プライベートでの出来事を仕事にも生かして、板垣さんにしかできない提案でお客様に喜んでいただけているということが伝わる取材でした。