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■ 東北ウーマンインタビュー


人と人との距離を縮める武器を操る

 

人と人との距離を縮める武器を操る
落語家 六華亭遊花さんインタビュー

六華亭遊花さんは古典落語を東北弁で落語噺とするほか、遠野民話をオリジナル落語として話されています。東北や女流落語家としての思い、仕事のやりがいや今後挑戦してみたいことなどについて詳しくお話をお伺いしました。

古典落語 落語の演目のうち、一般的に江戸時代から明治時代・大正時代にかけて作られたものを指すことが多い(出典:Wikipedia)

※遠野民話 遠野地方の土淵村出身の民話収集家であり小説家でもあった佐々木喜善より語られた、遠野地方に伝わる伝承を柳田が筆記、編纂する形で出版され、柳田國男の初期3部作の一作。日本の民俗学の先駆けとも称される作品である。(出典:Wikipedia)

東北の言葉でしか表現できないことがある

小松 ) 落語家になった経緯や理由を教えてください。

遊花 ) 元々フリーのレポーターをやっていて、そのころから一つのウリとして東北訛りをつかっていました。その時一緒に番組をやっていた人と、東北の人はあんまり東北弁を積極的に人の前で使わないよねって話になって。使わないとどんどんなくなっていくでしょう。だったら私たちが使おうって。おもしろい話、楽しい話って何だべねって考えたときに思いついたのが落語でした。確かに落語は江戸落語、上方落語は関西弁なのに東北弁でやる落語はないよなぁ、ということになって、じゃあやりましょうというのが経緯です。

※~だべ(方言:~でしょう、~だろうという意味)

小松 ) 東北の言葉を守っていきたいという思いではじめたんですね。

遊花 ) そうですね、あとは東北の言葉を使って表現したいというか、旅行とかで東北を訪れた人が「東北の言葉っていいね」って思ってくれる場を作ろうという思いもありました。
小松 ) アナウンサーの時と落語家、話をするという点では同じですが、違いなどありますか?

遊花 ) 私の中では放送で話すのも、落語を話すのも初めは言葉で表現するのは同じでした。だけど、落語の方が自由だし、自分の世界をもっともっとやれるというところですかね。なので私は落語は“言葉”から入ったという感じです。
小松 ) 落語をやるとき気を付けていることや、自分の中にある軸みたいなものはありますか?

遊花 ) 言葉を東北弁で表現するだけでなく、東北の風景とか東北人が見える落語を心掛けています。みなさんよく言葉を東北弁に変えているだけという風におっしゃるんですけど、それだけじゃないんですよね。そこに登場する人がちゃんと東北人に見えるように、東京や大阪でやっている古典落語も必ず東北という地で、東北の人が浮き上がるような落語をしようと思ってます。喋っててなんか“いづい“なぁと思うと、これ江戸落語なんだなぁって思って自分でアレンジしています。
悪口とグチは高座の上で

小松 ) そうだったんですね。女性の落語家だから表現できるものはありますか。

遊花 ) 落語家って男性が多くて、もともと男性だけの商売なんですよ。だからどうしても男の人がメインっていうか、男性目線で作られたものが多いので、登場人物の男性を女性にしてガラッと変えて、作りなおしています。あとは、東北の田舎の普通のおばあちゃんが井戸端会議でお茶飲み話をするような、生活の中のことをネタにしています。こういうのは男性の師匠たちはやらないので。
小松 ) 女性目線の落語を心掛けているんですね。

遊花 ) そうですね。いらっしゃる年齢層と私の年齢が一緒だったり近かったりするから、みなさん話に共感していますね。本当に生活の中のネタが多いから。旦那の悪口とグチは高座の上で言います。(笑)こういうのがウケたりしますね。
小松 ) 日ごろから日常の中でネタ集めをされてらっしゃるんですね。

遊花 ) トラブルとかって普通「あーっ…」って思って落ち込みますよね。でもこういうのも高座でしゃべってやろう!と思うと楽しくなったりとか、失敗でもなんでも腹立つことがあってもネタにしてやる!て思いで過ごしていますね。楽しいことばかりじゃないから、私が怒るとみんな一緒になって「そうそう!」ってスッキリしている感じはします。
みなさんの笑顔と大爆笑が大好物

小松 ) 落語をやっていて、やりがいや、やっててよかったと思う瞬間はありますか。

遊花 ) みなさん日常であんまり笑わないっておっしゃるんです。ある程度年齢の高い人が多いんだけど、そうすると一人暮らしだったり、夫婦2人だったりして、そうそう笑わないそうです。だから、「今日は笑った。一生分くらい笑った。」って聞くと、こういう人たちの、こういう気持ちの人たちのためにも私たちは落語をやるんだなぁと思いますね。
小松 ) 「一生分笑った。」そう言ってもらえるのはうれしいですね。

遊花 ) 実は震災のあったとき、そのころ月一回だったからもう来月は無理だね、会場も使えないしって話をしていたら、避難所から電話がきたんです。次のチケット持ってるんですけどやりますかって。避難所にいる人そんな余裕あっかや!と思ったんですけど、だからこそ寄席に行きたかったんじゃないかなぁと思って。その時落語をやって思ったのは、楽しいから落語を聞こうとか、寄席を見に行こうっていうよりも、辛いけど、しんどいけど、寂しいけど寄席に行ったら楽しいっていう思いで来てくださってるのかなぁって。そういう人たちに「いやぁ楽しかった、また来るね~」って言ってもらえると、お役に立てると言ったらおこがましいけど、人生の中の楽しい時間を作っているのかなと思うので、それはいい仕事だな、幸せだなと思いますね。
小松 ) 一緒に楽しい時間を作る、とても素敵ですね。先ほど震災のことについて触れられていましたが、地元に対しての思いなどありますか?

遊花 ) 昔の東北は貧しい農村が多かったんです。だけどそのときに、ただ歯を食いしばって、涙をこたえて暮らしていたんじゃなくて、そこにはユーモアもあったり、笑いもあったりして。たくましいと思うんです東北の人って。そういう東北人のひたむきさとかもありつつ、ちょっとおだってて面白いとか、そういうところが好きですね。
東北の人は慣れっこくて人が好きな人が多い

小松 ) 私は山形に来て、方言とかにびっくりすることが多いのですが、同じ東北の中でも県によって全然違いますか?

遊花 ) 県どころか、県内でも市町村ごとに違うし、仙台市の中だってあっちとこっちで全然違いますね。だから私もあえて東北弁って言ってるんです。みんな自分の暮らしてきた、生きてきたものだけを信じてるから、難しいんです実は。
小松 ) なるほど…。深いですね。好きな方言とか事ははありますか?

遊花 ) 宮城で言うと、「もぞっこい」です。“かわいそう”って意味で、そこに“いとおしい”という気持ちも入ります。
小松 ) 趣がありますね。遊花さんの思う方言の魅力っていうのはなんでしょうか?

遊花 ) 人と人との距離を縮めることができるという点です。私よく客席と会話するんですけど、特に日中はおばちゃんとかおじちゃんが多いから、みんな親戚みたいな感じで。「さぐい」これも方言で、親しみがあるっていう意味です。方言はね、最高の武器ですよ。(笑)人と人との距離を縮めるのには。
小松 ) 温かい感じがします。
 
あくまでも“フィクションです“という前置きをして面白おかしく

小松 ) これから何かやってみたいことはありますか?

遊花 ) 東北の歴史を題材にしたオリジナル、創作落語を作りたいと思っています。岩手県の遠野市って昔、女性の殿様がいたんです。それは青森の八戸の根城っていうところからきてるんだけど、旦那さんが死んでしまって、変わりに奥さんが殿様になって任せられることになって。そういう歴史って知られていないし、女性の殿様ってどういう感じだったのかなって想像はできるんです。周りの家臣の男性たちにひがまれてたのかなとか、それとも言い寄られてたんでねぇかとか想像が膨らむの。そうすると私の中ではもう落語になるんです。でも実際はそうじゃない可能性もあって。本当はこの女性の殿様は頭を剃って、出家みたいにして凛とした生き方をしたらしいんです。そういうのをちゃんと勉強して、資料を集めて完全に事実じゃなくても東北の歴史がわかるみたいな話をこれからは作っていきたいですね。東北の歴史を題材にした創作落語、これがこれからの仕事です。
小松 ) 歴史をメインとした落語をそれからやっていきたいんですね。

小松 ) ご自身が1番得意とするお話はなんですか?

遊花 ) 夫婦の話です。私が夫婦の話をすると奥さんが強くて、そして間違いなくハッピーエンドにします。だからオチっていうか落語の下げの部分もちょっとアレンジして、大抵女性目線で旦那さんの悪口を言う感じなんだけど、でも本当に心底悪い人は一人も出てこなくて。みんななんだかんだいい奴なんだよっていう人たちが出てくる話をしたいと思っています。
小松 ) 落語を話す時のスタイルや、外見で気を使っているところはありますか。

遊花 ) 髪型です。私、最初の頃は髪を伸ばしてアップにしていたんです。だけど、ある時女性って伸ばした髪をアップにした姿が1番女性らしく色っぽいって気づいて。だからどんなに「てめぇなにやってんだこのやろう!」って言っても私には女性に見えてしまったの。それから髪は短くしようと思いました。口紅も赤いものは使わないし、ファンデーションも男役もやるから肌と同じくらいのベージュしかつけないとか。話の登場人物に見えるように外見には気をつけています。あとは、落語家ってあんまり柄の入ったものとかは着ないんだけど、着物を見るのを楽しみにしいているお客さんもいるんです。だから安くてもいいから綺麗な着物とか色がパッとした着物を着るように心がけています。
小松 ) 髪型からお着物まで気を使われているんですね。髪を切るっていうのは女性にとって結構勇気のいることだと思うんですけど、迷いはなかったのですか?

遊花 ) 自分が一生懸命男役をやっているのに視覚的な問題で、どう考えても見えないっていうのは損だから、なるべく髪は短くしようと思って。だから迷いはなかったですね。間違いなく女流落語家なんだけど話の中ではちゃんと男性に見えるように、そのために邪魔になるものは取っていく、長い髪は切る、って感じです。
カラオケに行ったら喉が潰れるまで歌って太くしていた

小松 ) 男性が多い業界の中で、女性だからこそ苦労したことや悔しいと思ったことはありますか?

遊花 ) 私、若いときは高くてかわいい声だったんだけど、この声では落語はできないなって思ったんです。低い声になりたくてわざと潰すみたいな発生したり、変な発声で声を潰したりとかしてました。普通、こういう仕事している人ってのどを大事にするっていうんですけどね。ただ、あとから落語は声の高さと低さだけじゃなくて話すスピードとか少し変えるだけでやれるって気づいたんだけど。(笑)でもあの時私は低い声が出したくて、覚悟を決めてやっていました。
小松 ) 女性と男性の声を分ける必要はないと気づいたのはどのような時だったのですか。

遊花 ) 声だけで男性と女性を演じようとすると限界があるんです。女性が2人も3人も出てくるかもしれないから。だけど、話すスピードとか言い方、パキパキ話したり、おっとり話したり、おどおどしてたり。これでもう3人できます。同じ声でもそれさえ使い分ければ4人いるように聞こえるんです。自分でやっても人の話を聞いてもそうだったけど、全く同じ声のトーンと高さで何人も演じ分けてる落語家さんっていっぱいいるんです。それはその人の声色じゃなくて表現で差をつけているから、聞いてるお客さんにはちゃんと伝わる。声色だけでやるのは限界があるって自分がやっていく中で気づきました。喋り方、スピード、感情でいくらでも演じられるって。
小松 ) 落語をやってていいなぁと思う瞬間はどんな時ですか?

遊花 ) 落語ってたった1人で1つの世界を作れるんです。セットもなければ音響もなく、自分1人で汗垂らして何人も演じることで1つの世界を作ってるなぁって。だから同じ話をやっていてもその時の感情が違ったりします。私なんかは特に2度と同じようにはできないわけだから楽しいです。幸せ。そしてお客さんが笑っているんです。こんな贅沢な仕事ないなぁって思って。絶対不快な思いはさせない。泣くことはあっても、泣くのも心が動く証拠だから泣きながらも「よかったぁ」って言っていただけるのは嬉しいです。自分の感情が毎回変化するのも楽しいし、お客さんが笑ってくれるのも嬉しいですね。
小松 ) 最後にお仕事に対する思いを教えてください。

遊花 ) 働くことって大変だから、その大変さが無くなると結構つまらないですね。大変だから仕事が楽しいのかなぁと思います。「あぁ悔しいな」とか「上手くいかなかったなぁ」っていうことが日々あるっていうのは楽しいし幸せです。そうすると上手くいった時その何倍も嬉しいじゃないですか。
小松 ) 大変なことや苦労することがあって、それを乗り越えて嬉しいことや楽しいことを感じることができるからお仕事って楽しいんですね。今日遊花さんのお話を伺ってそう感じました。本日はありがとうございました。

≪ アクセス ≫

〒980-0811

宮城県仙台市青葉区1番町4丁目4-23

地下鉄南北線 勾当台公園駅 南2・南3出口より徒歩1分

高座と客席の距離がとても近く、温かい雰囲気で包まれた劇場です。

 

 

profile
六華亭遊花さん
 

岩手県遠野市出身

1997年 東方落語入門

2004年 演劇芸術祭「23世紀☆仙台☆恋愛のススメ」主演

2005年 真打昇進「川野目亭南天」真打昇進記念公演 

演劇「ラン・フォー・ユア・ワイフ」     

演劇「クリスマス・ミッション」主演

2007年 NHKドラマ「どんと晴れ」出演 2008年 NHKドラマ「お米のなみだ」出演

2009年 仙台めせな寄席出演 2010年 青葉祭り青葉寄席出演

(2009年~)第1回仙台七夕寄席出演 2011年 花巻市主催 宮沢賢治イーハトーブ奨励賞受賞

2012年 4月当方落語より独立。

落語家芸術協会・三遊亭遊さん一門となる

主な活動・出演番組

・TBCラジオ「ラジオ魁知国寄席」(毎週日曜日8:00~9:00)

・IBC岩手放送「六華亭遊花のラジオ魅知国寄席」(毎週月曜日18:30~19:00)

・TBCラジオ「ロジャー大葉のラジオな気分」(毎週水曜日のラジオカー担当)

・TBCラジオ「COLORS」(毎週火曜日9:00~12:00)

・NHK仙台放送局作製

・ラジオ第1放送「民謡をどうぞ」


(取材:2018年6月)

interviewer
こまつるい(フリーランス小松)
 

 

出身地:北海道網走市

趣味:部屋掃除

東北の好きな所:四季があって桜がきれいなところ

モットー:終わりよければ全てよし

ひとこと:東北の春が大好きです


<編集後記>
遊花さんはとても気さくな方で、親戚のおばちゃんとお話しているような感覚でした。取材後、遊花さんの落語を拝見したのですが、夫婦のお話をされている際、高齢の女性のお客さんが楽しそうに頷きながら聞いている姿がとても印象的でした。  “いづい”という方言は北海道でも使うので、聞いた時親近感が湧いてなんだか嬉しかったです。